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純情イミテーション

ゆびきりんげんまん、うそついたらはりせんぼんのます。
そういって小指を絡ませたのは、今よりずっと幼い頃の話だ。彼も自分もただの子どもでいられた頃の、何気ない思い出。魔法の呪文のようなその言葉は、確か二人で城を抜け出した時に街で耳にしたのだったと思う。自分たちはとても単純だったから、すぐに実行したのだ。言葉の意味さえ、よく知りもせずに。

あれから随分と年月の過ぎた今となっては誰にも話せないけれど、彼との約束は生きていく上での希望だった。叶うわけはないとすぐに思い知ったけれど、きっと彼はもう忘れてしまっているだろうけれど、それでも。
嘘で塗り固められた世界で、虚像だらけの世界で、彼と過ごす日々だけが私にとっての真実だった。何よりも愛おしい、心から愛した大切な日々。でも、今日でお別れね。

机の引き出しをあけ、奥から木箱を取り出す。そっと蓋をあければ、大事に保管してきたものがそこにはあった。数色のビーズで出来た指輪は、あの日彼がくれたものだ。一国の姫ともあろう者がこんな安物を宝物にしてきただなんて、きっとお父様は怒るだろう。今日これから会う予定の顔さえ知らない婚約者だってさっさと捨てろと言うに違いない。私の行動が異常だというのは、充分に自覚しているのよ。こんなものに縋りつくなんて惨めだとすら思うわ。でも、それでいいの。だってそれが私だったんだもの。

きら、きら。
ライトの光で照らされるビーズの指輪は、まるで本物の宝石のように輝いている。ああ、これを今でも左手の薬指に嵌められたなら。私は誰よりも幸せになれたはずなのに。

「今までありがとう」

一瞬のためらいを捨てて、ゴミ箱に放り込む。後は侍女が綺麗に片してくれるのを待てばいい。たったこれだけで、私と彼の繋がりは全てなくなった。唯一残る記憶すらも、後数年も経てば跡形もなく消えてなくなってしまうのだろう。初恋などあっけないものだ。

「姫様、そろそろお時間ですよ」
「ええ、すぐに行くわ」

ドレスを引きずって、宝石で着飾って、私は砂糖菓子で出来た部屋から出て行く。
涙は流さない。流せない。弱音なんて吐いてはやらない。彼だけが知っている弱虫な私は、もうどこにもいないのだから。